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事実の概要

神戸市立工業高等専門学校(以下「神戸高専」という)の学生X(原告・控訴人・被上告人)は、聖書に固く従うという信仰を持つキリスト教信者である「エホバの証人」である。Xは、聖書に従うならば格技である剣道実技に参加できないという信念を持ち、必修科目である保健体育の剣道の授業ではレポート提出等の代替措置を認めてほしい旨申し入れたが、神戸高専の校長Y(被告・被控訴人・上告人)は代替措置をとらなかった。剣道の授業で、Xは準備体操に参加するなどしたが、剣道実技には参加せず、欠席扱いとされた。このため体育の成績が認定されなかったXを、Yは原級留置処分にした(第1次進級拒否処分)。翌年度も同様であったXをYは再度の原級留置処分にし(第2次進級拒否処分)、「2回連続」の原級留置処分を学則上の退学事由として退学処分にした。そこでXは、本件各処分が信教の自由を侵害するとして取消しを求めて訴えた。1審(神戸地判平成5・2・22行集45巻12号2108頁および2134頁)は、剣道実技履修義務がXの信教の自由に対する「一定の制約」となるとしつつも、剣道を、「それ自体宗教と全く関係のない性格を有し、健全なスポーツとして大多数の一般国民の広い支持を得て」おり、義務とした場合に兵役や苦役と比べて「その制約の程度は極めて低」いものとし、また代替措置は「政教分離原則と緊張関係にある」と述べ、それをとらなくてもYの裁量権の逸脱・濫用はないと判示し、Xの請求を棄却した。そこでXは控訴。2審(大阪高判平成6・12・22民集50巻3号〔参〕517頁)は、「信教の自由を制約することによって得られる公共的利益とそれによって失われる信仰者の利益について」「比較考量」し、代替措置は「裁量が適切に行使され」る限り政教分離原則違反とはならず、Yが代替措置を全くとらずにXを退学処分にしたことは「裁量権を著しく逸脱」すると判示し、1審判決を取り消し、退学処分等も取り消した。そこでYは上告。¶001