事実の概要
本件は、X(原告・被控訴人・上告人)が、著作権法(昭和45年法律48号)の施行日である昭和46年1月1日より前に公開された映画の著作権侵害を理由として、上記映画のDVD商品を海外において製造、輸入、頒布するY(被告・控訴人・被上告人)に対し、民法709条、著作権法114条3項に基づき、損害賠償を求めた事案である。Yは、上記映画の著作権の存続期間につき旧著作権法(明治32年法律39号)6条が適用されると考え、既に上記映画の著作権の存続期間は満了したと誤信していたが(旧著作権法での存続期間は、監督が著作者の場合は死後38年間、昭和46年施行の著作権法〔平成15年法律85号による改正前のもの〕により映画製作会社が著作者の場合は公表後50年間とされたが、詳しくは本書80事件を参照されたい)、本判決は、輸入・頒布行為についてYには少なくとも過失があるとしたものである。なお、第一審(東京地判平成21・6・17判タ1305号247頁)は、損害賠償請求を一部認容したが、控訴審(知財高判平成22・6・17裁判所Web〔平21(ネ)10050号〕)は、「原判決は、Yのような著作権の保護期間が満了した映画作品を販売する業者については、その輸入・販売行為について提訴がなされた場合に、自己が依拠する解釈が裁判所において採用されない可能性があることは、当然に予見すべきであるかのような判断をするが、映画の著作物について、そのような判断をすれば、見解の分かれる場合には、裁判所がいかなる見解を採るか予測可能性が低く、すべての場合にも対処しようとすれば、結果として当該著作物の自由利用は事実上できなくなるため、保護期間満了の制度は機能しなくなり、本来著作権の保護期間の満了した著作物を何人でも自由に利用することを保障した趣旨に反するものであり、当裁判所としては採用することはできない」として、著作権の侵害を認めつつも、Yの過失を否定した。¶001