事実の概要
X(原告・控訴人)は、平成元年11月にY保険会社(被告・被控訴人)との間で保険契約者兼被保険者をX、死亡保険金受取人を妻A(後に長男Bに変更)、死亡保険金額3000万円(後に2830万円に減額)、保険料月額1万4342円(後に1万7654円に増額)の生命保険契約(以下、本件契約という)を締結した。本件契約の約款には、保険契約者は、Yの同意を得て、保険契約上の一切の権利・義務を第三者に承継させることができる旨(以下、本件条項という)が定められており、Yの内規には、被保険者の同意を得た契約者の個人への変更は2親等以内の親族である場合、法人への変更は被保険者が新契約者の役員、従業員、またはそれらと同等の地位、資格を有する者である場合にそれぞれ限定される旨が定められていた。Xは、平成2年頃に肝機能を患い、平成5年以降、長期入院で稼働不能となり、平成14年に肝癌宣告を受け、Aの稼働、親族からの借入金や自宅の売却等により生活費・治療費を捻出してきたものの、さらなる資金繰りの目処も、該当する公的扶助制度もなく、極めて困窮した生活に陥り、本件契約の医療保障部分を失効させるほど保険料の支払にも窮しており、リビングニーズ特約の要件にも該当せず、解約しても返戻金額が約28万円という状況下で、Bの大学進学に伴う資金が必要となり、平成16年10月頃、米国で行われている生命保険の買取りを日本で業とするC社を知り、同年12月14日、本件保険契約者の地位を譲渡するとともにX死亡の場合に弔慰金を支払う等の条件を伴う売買契約をCと締結し、本件条項に従いYに同意を求めたところ拒絶されたため、本件訴訟を提起した。原審(東京地判平成17・11・17判時1918号115頁)が、同意の可否の判断は原則として保険会社の裁量に委ねられ、保険者の承諾を義務づける法令の規定や特約はなく、契約者の地位の売買に関しては変更を認めない取扱実務が通例であり、生命保険の契約者の地位の譲渡がXにとって生命保険を利用する唯一の資金取得方法であるとはいえず、契約者の地位の売買取引について米国やわが国の生命保険業界で異論があり、様々な問題が生じる危険性が否定できないこと等から、Yの同意拒否が裁量権を逸脱した権利の濫用に当たるとまではいえないとしてXの請求を棄却したため、Xが控訴。¶001