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事実の概要

亡Aは大手製造業N社に正社員として入社し、平成7年から芸術文化支援などを担当するM室の担当課長、平成10年からメセナエキスパートとなり、社会貢献支援活動関係の企画・運営、広報活動等に従事していたところ、平成20年4月、新たにBがM室長に就任し、メセナ事業運営を見直す方針を示すようになった。Bは、メセナ活動の縮小・廃止等を視野に、Aに対して、メセナ活動の効果の数値化等を指示するほか、メセナ事業の支援先たる音楽団体の担当者等に対して、支援活動を打ち切る等の方針等を示し、Aは音楽団体とBの板挟みとなることがあった。そのような中、Aは平成21年2月3日、Eクリニックの診察を受け、「抑うつ神経症等」と診断されるが、投薬治療等を受け、いったんはAの精神状態は回復または安定傾向となった。その後、平成21年4月、Bはメセナ関連業務が減少していたことから、Aの処遇は維持しつつ、公共トイレなどのバリアフリー状況を調査して、インターネット上で障害者に情報提供する等のIT関連業務を指示した。これに対してAは不満があり、指示に手を付けなかったところ、同年5月ないし6月頃、Bは職場内において他の社員が聞こえるくらいの声で、1~2分にわたりAを大きな声で叱責した。また以前から実施してきたチャリティコンサートについても、AがBの意向に沿った見直しの企画書を示したところ、I音楽団体から強い反発を受けた。そのような中、平成21年7月25日、Aは自宅において、首を吊って自殺したところ、Aの妻であるX(原告・控訴人)が平成26年7月25日、Y(三田労基署長―被告・被控訴人)に対し労災遺族補償給付を請求した。これに対しYは、同27年1月28日付けで、労災不支給決定処分を行い、その後、Xの行政不服審査と再審査請求がいずれも棄却されたことから、本件処分の取消しを求め、提訴した。1審判決(東京地判令和元・10・30労判1243号78頁)は、Aの発症日を平成21年1月中旬とした上で、同発症日から遡って6か月以内における業務上の心理的負荷は「中」または「弱」であり、当該発症につき業務起因性は認められないとし請求棄却したところ、Xが控訴した。¶001