事実の概要
昭和35年5月16日、当時少年であった被告人は、自動三輪車運転の業務に従事していたところ、安全確認の措置をとらないまま漫然と車を後退させた業務上の過失により、荷を整理していた被害者に車体後部左側を衝突させ、同人に加療約1か月間を要する傷害を負わせた。また同日、被告人は、法定の除外事由がないのに、事故の内容を警察官に報告すべき義務を怠り、かつ、警察官の指示を受けないで現場を立ち去った。これらの事実について同年8月24日に、検察官は刑事処分相当の意見を付けて家庭裁判所に送致した。同裁判所は、同年9月27日に、業務上過失傷害の事実については地方検察庁検察官に送致する決定をしたが、旧道路交通取締法違反の事実については、同法施行令67条2項(交通事故の場合の措置)が憲法38条1項に違反し無効であり、その余の点は、事案軽微であるとの理由をもって、少年法19条1項に基づく審判不開始の決定をした。検察官は、業務上過失傷害の事実について、同年10月18日に地方裁判所に起訴した。このとき、少年が同月10日に成年に達していたため、旧道路交通取締法違反の事実についても、家庭裁判所の審判不開始決定に示された憲法違反の判断には承服しがたいとして、併せて公判請求した。同地方裁判所は、業務上過失傷害については有罪として罰金刑を科したが、審判不開始決定に一事不再理効があることを理由に、旧道路交通取締法違反については免訴判決をした。これに対して控訴がなされたが、高等裁判所はこの見解を維持し、検察官の控訴を棄却する判決をした。¶001