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事実の概要

税務署員であった被告人Xは、Yらが税務調査における所得額等の査定につき好意ある取扱いを請託し、その報酬として供与するものであることを知りながら、Yらから現金10万円その他を収受したとして、受託収賄の事実で逮捕された。その後の取調べに対し、Xは金品受領の事実を認めつつも返還する用意があったとして、これを収受する意思の存在は一貫して否認していた。¶001

贈賄者Yの弁護人Aは、Xのためにも尽力して欲しいとのYの頼みにより、Xの事件の担当検察官Pと面談した際、Xのために陳弁した。これに対し、PはXが見えすいた虚構の弁解をやめて素直に金品収受の犯意を自供して改悛の情を示せば、検挙前金品をそのまま返還しているとのことであるから起訴猶予処分も十分考えられる案件であるとの内意を打ち明け、かつXに対し無益な否認をやめ率直に真相を自供するよう勧告したらどうかという趣旨の示唆をした。そこでAは、Xの弁護人Bと共に留置中のXと面会し、「検事は君が見えすいた噓を言っていると思っているが、改悛の情を示せば起訴猶予にしてやると言っているから、真実貰ったものなら正直に述べたがよい。馬鹿なことを言うて身体を損ねるより、早く言うて楽にした方がよかろう」と勧告した。その際、AはXが貰い受けた現金を返還したと信じていたため、起訴猶予の前提条件となる金品の返還についてはXに告げなかった。XはAの言葉を信じ起訴猶予になることを期待して、その後の取調べから順次金品を貰い受ける意図のあったことおよび金銭の使途等を自白し、その旨の調書が作成された。ところが、Xの自白の結果、PやAらの予期に反し、Xが現金の大半を費消したことが明らかとなったため、Xは起訴された。¶002