事実の概要
X(原告・控訴人・上告人)は3歳のときに化膿性髄膜炎のため、Y(国―被告・被控訴人・被上告人)の経営する東大附属病院に入院した。その治療のため担当医がXにルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリン注入)を実施したところ、その15分から20分後に嘔吐、けいれんの発作等が起き、右半身麻痺、言語障害・知能障害等の後遺症が残った。¶001
第一審(東京地判昭和45・2・28判時607号54頁)はルンバールによる脳出血が原因でXに障害が残ったことの因果関係を認めたが、担当医の治療上または看護上の過失を認めず請求を棄却した。原審(東京高判昭和48・2・22民集〔参〕29巻9号1480頁)は、(1)Xの入院後に髄膜炎の症状は軽快しつつあったが、本件ルンバール施術を受けた直後に発作を起こして後遺症が残ったこと、(2)ルンバール施術直後の髄液所見は病状の好転を示していたこと、(3)食事前後のルンバールは嘔吐のリスクがあるので避けるのが通例なのに本件では担当医が学会出席に間に合わせるためあえて食後20分以内に行われたこと、そして嫌がるXを押さえつけて実施し、何度もやり直すなど終了まで約30分を要したこと、(4)Xの血管はもともと脆弱で(3)のような情況でのルンバール実施により脳出血を惹起した可能性があること、(5)臨床所見と脳波所見を総合すると脳実質の左部に異常部位があると判断されること、(6)Xが退院するまで主治医は原因を脳出血として治療していたこと、(7)化膿性髄膜炎再燃の蓋然性は通常低く、当該事案でも再燃するような特別の事情が認められないことを認定しながら、本件発作とその後の病変の原因が脳出血か化膿性髄膜炎等の再燃のいずれによるかは判定し難く、本件病変の原因がルンバール実施にあることも断定し難いとして、請求を棄却した。¶002