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事実の概要

Y(被告・被控訴人・上告人)は、賃借期間を昭和44年9月1日から2年間、賃料を月額16万8000円とする約定で、Aから4階建ビルの1階北側部分および3階を借り受けるに際し、敷金800万円を差し入れた。本件建物には当該賃貸借に先立ち昭和43年に根抵当権が設定されていたところ、同44年10月に競売申立てがなされ、X(原告・控訴人・被上告人)が同45年11月にこれを競落して所有権を取得した。Xは、同月中に本件建物の所有権移転登記を経由したうえ、Yに本件建物の明渡しを訴求した。第一審(佐賀地判昭和46・8・4金判453号11頁)においては、A・Y間の賃貸借はXに対抗しうる短期賃貸借であるとしてXの請求が棄却されたためXが控訴。原審(福岡高判昭和47・10・18判タ288号214頁)において、Yは上記賃借期間以後の占有権原を主張せず、造作買取請求権と敷金返還請求権に基づく本件建物の留置権および同時履行の抗弁権を行使する旨主張したが、原判決は、造作買取請求権は留置権および同時履行の抗弁権の対象にならない、敷金返還請求権は賃借物の返還後に生じるので留置権も同時履行関係も認められないとしてXの請求を認容した。これに対しYは、「敷金は建物の賃貸借なる経済的関係において発生し賃貸人が敷金の返還をなさずして建物の明渡を求めることは社会観念上不当」であり敷金返還請求権につき留置権を容認すべきである、実際上建物明渡時に敷金を返還する慣習があり原判決には経験則違背がある等主張して上告した。¶001