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事実の概要

繊維製品等の販売を目的とするX会社(原告・控訴人・上告人)は、昭和26年2月と3月に「東京地方裁判所厚生部」(以下、「厚生部」とする)との間で、フラノ地16反およびサージ10反の売買契約を締結して納品した。この「厚生部」は、戦時中から同裁判所職員の福利厚生をはかるため、生活物資の購入配給活動を行い、いわば自然発生的に「厚生部」と呼称されたものであった。そして、昭和23年8月、東京地裁事務局総務課に厚生係が設置された後も、同地裁では、これまで厚生部の事業に携わってきた職員Aらを厚生係とし、その本来の事項を分掌させるとともに、従前どおり厚生部の事業の担当者としてこれを継続処理することを認めた。そこで、Aらは、厚生係室にあてられ厚生係の表札を掲げた一室において、「厚生部」の名義で他との取引を継続した。そして、Aらは、Xとの本件取引においても、発註書や支払証明書には、庁用の裁判用紙を使用し、さらに、発註書の頭書には「東地裁総厚第○号」と記載し、また、支払証明書には東京地裁の庁印を使用する等の方法を用いていた。ところが、厚生部が売買代金374万円余を支払わなかったため、Xは、Y(国―被告・被控訴人・被上告人)に対し、以下の理由により、その支払を求めて訴えを提起した。すなわち、①厚生部は、外部的には東京地裁そのものであり、かりにその一部局でないとしても、東京地裁は、その名義と部屋を使用させ、現職の職員を配置し、用紙、庁印の使用を黙認していたのであるから、厚生部の取引について責任を負うべきである。また、②東京地裁は、職員の監督義務および裁判用紙・庁印の保管義務を怠ったのであるから、Xに対して損害賠償を支払う義務がある。これに対して、Yは、厚生部が東京地裁と全く関係なく、裁判所の取引方法は法令によって定められているから、Xが厚生部の権限を誤信したとしてもそれはXの過失であると反論した。第1審と原審はXの請求を棄却し、Xが上告した。¶001