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 Ⅰ はじめに

本稿は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号、以下「本法」という)の特徴を、独禁法1)上の優越的地位濫用(独禁法2条9項5号)、下請法2)と対比する観点から考察し、本法の意義と限界について、若干の検討を行う。¶001

 Ⅱ 本法制定の背景

最初に、本法制定に至る社会的背景と経緯を簡単に見ておきたい。¶002

まず、背景として、働き方をめぐる日本社会や人々の意識の変化がある。かつての日本で広く普及し高度成長期を支えてきた、男性中心の終身雇用制度をはじめとする日本型雇用慣行が転換期を迎え、雇用が流動化するとともに、男女の仕事への向き合い方が変化し、専門性の重視やデジタル化の進展等を背景に多様な働き方が可能となる中で、いわゆるフリーランスが急速に増加してきた。フリーランスの大多数は、個人として事業を行っているため、組織的に対応する発注者との間には、取引に係る交渉力や知識・情報に格差が存在することも多い。構造的に取引上不利な立場に立ちやすいフリーランスについて、適正な取引という観点から十分な規制が存在するか、という問題意識が生ずるのは自然な成り行きであった。¶003