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ビジネス・コートへようこそ

1 ビジネス・コート誕生

令和4年10月、ビジネスに関係する裁判を集中して取り扱う、我が国で初めての「ビジネス・コート」が誕生した。知的財産権紛争にかかる裁判、商事・経済紛争にかかる裁判及び事業再生・倒産処理にかかる裁判を集中して取り扱う裁判所である。¶001

庁舎の正式名称は、「知的財産高等裁判所・東京地方裁判所中目黒庁舎」というが、アメリカ合衆国等において一般的に通用している商事関係紛争を取り扱う「Business and Commercial Courts」を参考に、取り扱う事件を端的に示す名称として国際的にも使いやすく、分かりやすいものとなるよう、「ビジネス・コート」と称されている。¶002

場所は、「なかめ」と親しまれる東京都目黒区中目黒、東急東横線・東京メトロ日比谷線中目黒駅から山手通りを品川方面に徒歩約8分の立地である。¶003

2 ビジネス・コートの庁舎紹介

(1) 概要

ビジネス・コートは、かつて厚生労働省の施設があった跡地に建設された。¶004

鉄骨鉄筋コンクリート造り地上5階地下1階建て、延床面積約1万6100㎡(札幌高地裁、仙台高地裁の庁舎と同程度)であり、5階に知的財産高等裁判所が、4階に東京地方裁判所知的財産権部が、3階に法廷が、2階に東京地方裁判所商事部が、1階に東京地方裁判所倒産部が配置されている。¶005

当初は、令和3年中の開庁を予定していたが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い緊急事態宣言が発令されたこと等により工事に遅れが生じたため、令和4年8月の竣工となった。¶006

(2) 法廷

ビジネス・コートには、大合議法廷が1つ、合議法廷が7つ、単独法廷が2つ、ラウンドテーブル法廷が8つ設けられた。このうち、大合議法廷、合議法廷及び単独法廷は3階の法廷フロアーに、ラウンドテーブル法廷は、5階に1つ、4階に4つ、2階に3つ設置されている。¶007

大合議法廷(301号法廷)

ビジネス・コートで最も大きい大合議法廷は、知的財産高等裁判所における裁判官5名による大合議事件や大規模事件・著名事件などの裁判を行う際に使用することが想定されている。法壇は裁判官が5名着席できるように、かつ、審理が行いやすいようにアーチ状に弧を描いて設計されているほか、傍聴席は92席整備されている。その他の法廷の傍聴席数は、合議法廷が各48席、単独法廷が各24席となっている。¶008

ラウンドテーブル法廷

いずれの法廷も、灰色系と黒色系を基調として木を組み合わせた色彩計画のもと、無駄を省いたシンプルなデザインで、ビジネス・コートにふさわしいクールな印象を与えている。¶009

このほか債権者集会室、準備手続や審尋などで用いる事件関係室などを含めて、これまで以上に充実した設備を備え、手続の種類や進行状況、出頭者の人数等のニーズに応じ、フレキシブルに、かつ、効率的に庁舎全体を活用できる。¶010

(3) 建築デザイン

ビジネス・コートが面する目黒川は、目黒区内に残された川面を眺めることができる貴重な場所である。目黒川沿いの桜並木は、都内有数の桜の景勝地であり、世界中からも観光客が訪れるようになっている。ビジネス・コートの外観は、桜の花の色を想起させる白色系と淡いピンク系の混合色をベースとした優しい色調で、周辺の静謐な住環境に配慮するよう、庇の間隔が上階に向かって狭くなる意匠とし、これに合わせて灰白色、ピンク色、薄色(うすいろ)の3色をグラデーション状に配色することで、色彩が空に溶け込むイメージを持たせ、上層部の圧迫感を和らげるよう計画された。¶011

庁舎外観(正面)

建物の色彩は、中目黒駅からの道中で目にする目黒川の桜並木や、敷地内の桜・イチョウといった既存樹木を始めとした植栽の色彩に違和感なく溶け込み、柔らかい印象を与え、一方、庇の水平ラインとこれと交わる窓が形成する垂直ラインが組み合わさった直線的なデザインや庇が階段状となった意匠は、ビジネス・コートにふさわしい、スマートでシャープな印象を与えている。¶012

庁舎外観(西側)

ビジネス・コート内のサイン表示には桜の花をデザインしたモチーフが施されている。建物内部も目黒川の桜並木などの自然景観を意識したサイン計画のもと、統一感を持たせている。桜のモチーフの傍らには、「ビジネス・コート」、「BUSINESS COURT」の文字が配され、この名称が広く来庁者に浸透するよう企図されている。さらに、ビジネス紛争にかかる裁判などのために、外国人の来庁も相当数予想されることや、我が国で初めての「ビジネス・コート」として国際的な情報発信や国際交流に積極的に取り組んでいくことなども考慮し、来庁する外国人のアクセスにも資するよう、可能な限り、英語による案内表示を併記することとされた。国内の多くの施設では当たり前の光景であるが、裁判所ではビジネス・コートで最初に試みられたものであり、今後、我が国の裁判所全体の国際化へ通ずる第一歩となるよう願っている。¶013

案内板

(4) 庁舎外構、公開広場

ビジネス・コートの外周及び敷地内の植栽は、高木・低木が混植され、桜やイチョウといった既存樹木のほか、モチノキ、イロハモミジ、ツツジ、ジンチョウゲといった様々な種類の樹木が植えられている。また、既存樹木の桜に加え、ソメイヨシノを植えることで、植栽においても目黒川の桜並木との調和を意識して計画されている。¶014

敷地の目黒川側に位置するスペースには、桜やイチョウといった既存樹木を中心に新たな樹木も植えられ、「公開広場」として一般に利用されている。ビジネス・コートの敷地でありながら、周辺道路からの通り抜けもできるため、地域住民を始めとした市民が散歩等で利用し、寛げる場となっている。周囲の自然景観を取り込み、多くの樹木に囲まれた小さなオアシスのような場所を提供できれば幸いである。¶015

公開広場

ビジネス・コートが目指すもの

1 コンセプト

ビジネスに関係する裁判は、経済のグローバル化に伴い国際的な紛争になりやすく、例えば、知的財産権分野における紛争解決地の選択という点で国際競争に強くさらされている。そこで、ビジネス・コートにおいては、ビジネスに関係する部署を「選択」し、1つの拠点に「集中」させ、これらの部署が相互に連携して、国際的に通用する情報・知見・インフラ等とともに問題意識を共有しながら、更なる迅速性・効率性・利便性の向上という課題解決に取り組んでいきたい。これによって、利用者(ユーザー)の期待に応える「新しい裁判所」を実現し、より国際競争力の高い民事司法制度実現の一翼を担っていくことが使命であると考えている。¶016

2 3つのポイント

この使命を果たすために必要となるのは、次の3つのポイントである。¶017

①専門性(Professional)-専門的知見を踏まえた質の高い裁判¶018

例)専門人材(裁判所調査官・専門委員)の活用、研究者等との協議会・研究会の実施¶019

②迅速性、司法アクセスの容易性(Speedy Accessible)-スピード感を備え、かつ、アクセス容易な審理運営¶020

例)ウェブ会議、mints(民事裁判書類電子提出システム)の最大活用、ウェブ会議ブース等のIT設備の充実¶021

③国際性(International)-国際的な情報発信の推進、グローバルな視野を持った裁判¶022

例)国際的なシンポジウム等の開催・国際会議への参加、英語の案内表示¶023

英語の案内表示

3 ビジネス・コートのIT設備

ビジネス・コートでは、全ての部署でウェブ会議が実施され、訴訟を担当する部署ではmints(民事裁判書類電子提出システム)が利用されている。前述のとおり、ビジネス関係の訴訟・手続は、進展する国際化社会の中で、他の分野以上に国際競争力の強化を求められる分野であり、デジタル化による効率性を積極的に追求する観点から、これらの一層の活用を図るべく運用していくことが期待されている。このため、事件関係室では全ての部屋でウェブ会議を実施することが可能であるほか、裁判部門の事務室には複数台のウェブ会議用のブースが整備され、ウェブ会議等をこれまで以上に積極的に活用できる機器が整備された。ウェブ会議用のブースも、裁判部門では全国で初めてビジネス・コートに導入されたものである。¶024

ウェブ会議ブース1
ウェブ会議ブース2

また、職員に1人1台、スマートフォン型の内線電話が整備された。これにより、打合せテーブルや別室での電話使用が可能となり、機動性が高まるほか、スピーカーフォン機能を用いた電話会議も可能となるなど、利便性の向上が期待される。加えて、庁舎1階の待合コーナーには、タブレット型の開廷情報ディスプレイが複数台整備され、来庁者はタッチパネルを手軽に操作することにより、ビジネス・コートにおける当日の開廷情報を検索することができるようになった。¶025

開廷情報ディスプレイ

ビジネス・コートでは、全国に先駆けて導入されたIT設備も最大限活用して、ウェブ会議やmints等を効果的かつ積極的に運用しながら、民事裁判のデジタル化を実現していく所存である。¶026

4 情報共有、情報発信

ビジネス・コートには、我が国におけるビジネス関連の裁判の拠点として、全国の裁判所とその専門的知見やノウハウを積極的に共有していくことが求められている。IT設備も最大限活用した新たな審理運営の試みを発信し、裁判所全体のデジタル化に資するよう取り組んでいきたいと考えている。¶027

終わりに

ビジネス・コートの庁舎を紹介しながら、ビジネス・コートに期待されている取組や役割について述べさせていただいた。民事訴訟のデジタル化に向けた法改正がされ、倒産を始めとする非訟事件手続においてもデジタル化の議論が加速している。ビジネス・コートは、正に時宜を得て誕生した裁判所として、社会の期待に応えるべく、たゆまず果敢に取り組んでまいりたい。関係する方々のご理解とご協力、そして皆様のご支援を、是非お願いしたい。¶028