Ⅰ.問題の所在

本稿は、最高裁判所が憲法裁判において、判決に対する社会的支持や判決の政治的受容可能性等、予測される国民・政治部門のリアクションを考慮して判断を形成すること(以下、こうした要素の考慮を「政治的情勢判断」という1))について、経験的・規範的両観点から予備的な考察を行うものである。

最高裁判所が憲法裁判実務においてこうした政治的情勢判断を行うことのあることは、元最高裁判所裁判官の発言・著作などから窺われるところである2)。学界は、裁判所が憲法裁判においてこのような法外的要素を考慮に入れることには、法の支配、権利の保障の観点から一般に否定的であるが、ただ、その学界も、憲法裁判実務における政治的情勢判断の実態、その背景、その経験的な合理性や規範的な正当性、それを回避する方途等について、これまで必ずしも十分に立ち入った検討を行ってきたわけではなかったように思われる。そこで、本稿では、これらの諸点が法の支配、権利の保障にとって有する重要性に照らし、それらに関して今後検討を深めていくための予備的な考察を行うこととしたい。