FONT SIZE
S 文字の大きさを変更できます
M 文字の大きさを変更できます
L 文字の大きさを変更できます

事実の概要

かつて外務大臣を務めたこともあるX(有田八郎―原告)は、1959年4月に行われた東京都知事選挙に立候補し、その妻であるAも選挙期間中Xのために尽力したが、結局Xは落選し、その後XとAは離婚した。三島由紀夫というペンネームで知られる作家Y1(平岡公威―被告)は、この一連の出来事から着想を得て、「宴のあと」と題する小説(以下「本件小説」ともいう)を出版社B(中央公論社)発行の雑誌上に連載執筆した。同小説は、政治と恋愛の衝突をテーマとしたもので、Aをモデルとした「福沢かづ」という主人公が、Xをモデルとした「野口雄賢」なる男性と出会って結婚し、都知事選に立候補した夫を支援するが、夫は選挙に惜敗し、やがて両者は離婚するといった社会的に周知のAおよびXの経歴と同様のストーリーのうちに、Y1の創作による夫婦間の私生活の描写(両者の最初の接吻、同衾、夫の妻への暴力等)も含んでいた。なお、本件小説の連載執筆にあたりY1は、モデルとすることについてあらかじめAの同意を得ていたが、Xの直接の同意を得ることはしなかった。Xは、私生活を「のぞき見したかのような」本件小説の描写、特に妻を踏んだり蹴ったりする場面や寝室での行為・心理の描写等(以下「本件描写」ともいう)に不快感をおぼえ、連載終了後に単行本として出版することを中止するよう申し入れたが、Y1はこれを拒否し、本件小説は出版社Y2(新潮社―被告)から1960年11月付で単行本として出版された。¶001