事実の概要
内閣は、昭和61(1986)年6月2日に衆議院を解散し、衆議院議員総選挙を参議院議員通常選挙と同日の同年7月6日に行った。Xら(愛知県第1区ないし第6区の選挙人52名―原告)は、同選挙区における衆議院議員選挙の無効を求めて、公職選挙法(以下「公選法」とする)204条に基づき訴訟を提起し、次のように主張した。(1)①同日選挙を目的とした本件解散は、各議院に適した人物を選択しうる状況的保障を内容とする選挙権を侵害する。②参議院選挙により参議院議員の半数が欠けるときに衆議院を解散すると、参議院緊急集会の成立が困難になるから、本件解散は違憲である。③国政運営上国民にあらためて信を問うべき場合に限って、内閣は解散権を行使しうるが、本件解散はそのような必要性がないので違憲である。④統治行為論は、選挙が国民の民意を正当に反映されることを前提としているものであるのに、本件解散は選挙による民意の正当な反映を崩壊させるという点と、本件解散は、適任者選択の機会確保の保障という選挙権の内容を侵害し、他に解散権行使の必要がないのになされたもので、違憲の程度の高い国家行為である点から、本件に統治行為論を適用できない。これらの理由により本件解散は、憲法15条1項・3項、42条、47条等に違反し、本件衆議院選挙は無効である。(2)同日選挙禁止規定を欠く公選法は、憲法15条1項・3項、42条、47条等に違反する。仮に公選法そのものが違憲でないとしても、同日選挙を回避すべく公選法を運用すべきであり、同運用を誤ったことは上記憲法諸条項等に違反する。¶001