事実の概要
医師法21条は、「医師は、死体……を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と規定し、これに違反した場合には罰則が科される(同法〔旧〕33条。本件当時は罰金5000円〔罰金等臨時措置法によって2万円〕以下であった。令和7年4月時点では同法33条の3により、罰金50万円以下)。¶001
東京都立病院において病院長を務める被告人X(医師)は、自ら患者Aを診察し、手術のために医師BをAの主治医に指名した。後日、Bの執刀による手術は無事に終了し、Aの術後の経過は良好であった。その後、看護師らが製剤の取り間違いをしてAに点滴注射をしたところ、容態が急変し、Aは死亡した。BはAの病理解剖の実施を予定したものの自ら警察に届け出るつもりはなく病院内の対策会議にその決断を委ねた。Xらは対応を協議し警察に届け出ようとしたものの、東京都の担当者からの難色を受け、届出をしないままとなった(その他、病理解剖をしようとした病理医が、変死の疑いを覚えて警察への届出の必要性を示していたものの、これについて届け出なくてよいとの判断がされた)。以上の諸事情から、Xは、B医師と共謀し、医師法21条に定める警察への届出義務を24時間以内に果たさなかったとして医師法違反の罪に問われた。¶002