事実の概要
被告人は、平成7年5月に神社境内で66歳と1歳の被害者2名を包丁で刺殺し、その際正当な理由なくその包丁を携帯したとの殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反の公訴事実により、同年9月に起訴された。同年11月の第1回公判期日において、弁護人から、被告人が精神疾患に罹患しているとして公判手続停止の申立てがなされ、第2回公判期日以降その審理が行われ、平成9年3月の第7回公判期日に、裁判所は、被告人が心神喪失の状態にあるとして公判手続停止決定をした。その後、被告人は、勾留執行停止決定を受け、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく措置入院になって治療が続けられ、第1審は、約17年間の公判手続停止後の平成26年3月、被告人について、「言語的にも非言語的にもコミュニケーションは成立せず、裁判所や訴訟関係人の認識や黙秘権の理解はおろか人定質問すら成立する状況にない」、「度重なる精神鑑定等の専門家の診断を経ながら、……約17年間にわたって訴訟能力が回復しなかっただけでなく、現在、……意思疎通能力が、ほぼ完全に失われており、それに伴い、理解力も実質的に失われている」、「その原因は、非可逆的な慢性化した統合失調症の症状によるものであって、……平成10年以降の入院環境での薬物療法・生活療法の施行にもかかわらず、悪化の一途を辿っている上、現在は、脳萎縮による認知機能の低下も重なっており、回復の見込みが否定されている」などとして「被告人に訴訟能力はなく、その回復の見込みが認められない」とし、「公訴提起後に重要な訴訟条件を欠き、後発的に『公訴提起の手続がその規定に違反したため無効』になったものとして」刑訴法338条4号を準用して公訴棄却の判決を言い渡した。¶001