事実の概要
X1(原告・被控訴人)は、自己所有の本件不動産(土地17筆と建物1棟)につきY(被告・控訴人・上告人)のためになされた所有権移転登記、抵当権設定登記等が無効なものであるとしてその抹消を求めYを相手に提訴した。これに対し、Yは本件不動産にかかる登記は実体関係に符合した有効なものであると争った。¶001
本件訴訟に至った経緯は、原審の認定によると次のとおりである。X1は、目が悪いこともあり家業の農作業につき実弟(故人)の妻とその息子(つまり甥)X2(被上告人)に一任していた。X1には妻子がいなかったところ、昭和49年5月にX1とX2の間で養子縁組が成立した。縁組成立前の同年4月10日頃、X2はX1に無断でA(訴外)を復代理人として本件不動産の一部をB(訴外)に売り渡すこととし代金の一部を受領した。しかし、本件不動産のうち土地の名義がX1の先代所有のままであったため、X2は、上記の売り渡しに伴う登記義務の履行のため、無断でX1の印鑑登録の申請や境界査定、分筆等をまず行った。次いで、Bへの所有権移転登記手続の関係で、X2はAに言われるままX1の実印、土地権利証等をAに交付したところ、AはC(訴外)から本件不動産を担保に500万円を借り入れた。そのことがX1に発覚することをおそれたAが、今度はYから1000万円を借り入れてCに500万円を返したのであるが、その際に、AはX1の代理人として、Yのために所有権移転、抵当権設定等の一連の本件登記を行った。¶002