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Ⅰ はじめに

笠井令和4年(2022年)の通常国会で民事訴訟手続のIT化等を内容とする「民事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立して令和4年法律第48号として5月25日に公布されました。施行日は改正事項によって異なりますが、公布日から4年以内に全て施行され、日本の民事訴訟手続の様子は大きく変わることになります。¶001

今回が第1回となる研究会「民事訴訟のIT化の理論と実務」は、多岐にわたる改正事項を対象にして、それぞれの改正の趣旨やそこに至る検討状況等を解説していただくとともに、改正規定の解釈、想定される運用等について、理論上及び実務上の観点から皆様のお考えを述べて議論していただくことにより、読者の方々に今回の民事訴訟法改正に関する検討の材料をお示ししようとするものです。¶002

有斐閣では、従来、民事手続法関係を含めて、新たな立法に関する研究会がジュリスト等の雑誌に連載されることがしばしばあります。今回のIT化に関する民事訴訟法改正についてもジュリスト2022年11月号で、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「法制審部会」、「部会」等ともいう)の部会長であった山本和彦教授を中心とする特集が計画されていると伺っています。一方で、本研究会は、2022年秋に新たに立ち上げられるウェブサイト「有斐閣Online」で連載をするという企画です。電子媒体において、ある程度の期間をかけて、幅広い改正項目についてそれぞれを深掘りしていくものにしたいと考えています。¶003

研究会のメンバーとしては、その趣旨に沿う皆様にご参加をお願いしています。¶004

法律案の立案担当官として、法務省民事局の脇村真治参事官、実際にこの改正法を運用することになる実務家として、最高裁判所事務総局民事局の橋爪信総括参事官、第二東京弁護士会所属の日下部真治弁護士、民事訴訟法の研究者として、東京大学の垣内秀介教授、一橋大学の杉山悦子教授の皆様であり、司会は、京都大学の笠井正俊が務めさせていただきます。¶005

なお、冒頭に述べた民事訴訟法等の改正に続いて、現在、裁判所での各種の民事手続について、法制審議会民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会で審議が行われるなど、IT化の検討がされていますが、本研究会では、既に法改正がされた民事訴訟法を主たる対象とすることにします。ただし、本研究会でも、必要に応じて他の手続を話題にすることがあってもよいと考えています。¶006

この研究会の趣旨の説明は以上でございます。¶007

Ⅱ 自己紹介

笠井続きまして、自己紹介に移りたいと思います。ここでは研究会メンバーの皆さまに自己紹介をしていただきます。その中では今回のIT化等に係る民事訴訟法改正との関わりについても、簡単にお話しいただきます。それでは脇村さんから、よろしくお願いいたします。¶008

脇村法務省民事局参事官の脇村でございます。この民事訴訟法の改正につきましては、2021年7月から法制審議会の幹事として、事務当局として関与したほか、法制審議会の答申を得た後の、立案作業に従事しました。どうぞよろしくお願いいたします。¶009

橋爪最高裁民事局総括参事官の橋爪でございます。現職に就いたのが2021年4月になりますが、その当時は法制審部会で、改正に関する中間試案が取りまとめられて、パブリックコメントの手続が執られている最中でしたので、全国の裁判所から寄せられた大量の意見を見ながら、裁判所としての意見を取りまとめるという作業から、今回の改正法の議論に関与していくことになりました。今回の改正法はこれまでの紙の記録が電子記録に一気に変わるというもので、裁判手続や組織としての裁判所に与える影響が非常に大きいことは言うまでもありません。施行までの間に各裁判所、あるいは、当局において十分な検討をしていく必要があるわけですが、本研究会で議論を深めて勉強させていただければと考えております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。¶010

日下部第二東京弁護士会に所属する弁護士の日下部真治です。私は、2017年10月から内閣官房日本経済再生総合事務局に設置された裁判手続等のIT化検討会の委員、次いで2018年7月から公益社団法人商事法務研究会に設置された民事裁判手続等IT化研究会の委員、次いで2020年6月から法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会の委員を、それぞれ務めました。また、その過程で、民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議幹事会において、有識者としてヒアリングを受けたことなどもございます。こうした過去5年ほどの関わりにおいては、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)の関連委員会等からのバックアップを受けるとともに、日弁連の意見形成にも関与してまいりました。私の意見がすなわち日弁連や弁護士一般の意見であるというわけではありませんが、これまでの知見や見聞を踏まえて、弁護士の視点で、今般の民事訴訟法改正について議論をすることができればと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。¶011

垣内東京大学の垣内でございます。私は民事手続法を専攻している研究者です。民事訴訟のIT化との関わりという点で申しますと、私自身は笠井さんや日下部さんとは異なりまして、2017年に設置された裁判手続等のIT化検討会には関わっておりませんで、その後2018年7月に検討開始いたしました民事裁判手続等IT化研究会から検討に参加をさせていただいております。続いて、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会には、幹事として参加をさせていただきました。また現在は法制審議会民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会での審議に引き続き関与しております。この度、民事訴訟法のIT化に関する改正法がいったん成立したということになったわけですけれども、研究者として考えるべき課題というのは、まだ数多く残されていると認識しておりますので、今回の研究会で、実務家、あるいは他の研究者の方々からいろいろご意見を伺いながら、引き続き勉強させていただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。¶012

杉山一橋大学で民事手続法を研究しております杉山と申します。私自身は今回の民事訴訟法改正に関する法制審議会の部会メンバーではございませんでしたが、その前の商事法務研究会の民事裁判手続等IT化研究会と、氏名等秘匿措置との関係で証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会に委員として参加して、それぞれにおいて、イギリスの制度の調査研究にも協力させていただきました。現在では法制審議会民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会に幹事として参加しております。どうぞよろしくお願いいたします。¶013

笠井どうもありがとうございます。京都大学で民事訴訟法等の民事手続法の研究と教育に当たっている笠井でございます。裁判手続のIT化につきましては、先ほど日下部さんからもお話があった2017年秋からの裁判手続等のIT化検討会の委員となりまして、IT化の問題に関わるようになりました。その後、民事裁判手続等IT化研究会、続いて、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会の各委員として、この問題について考える機会を頂戴しました。それから氏名秘匿に関する杉山さんがおっしゃった研究会にも入っておりました。IT化のことに詳しいわけではありませんし、これまでの過程でその都度勉強してきたという感じでしたけれども、民事訴訟手続のIT化という重要な事柄に関わることができる、そういう機会がいただけてありがたく存じております。この研究会では皆さまからご紹介いただきましたように、今回の改正に向けた様々な場面で、中心的な働きをしてこられた方々にご参加いただきましたので、ここで活発なご議論をいただけるのを楽しみにしております。この研究会で私は司会ということで、基本的には議事進行係としてやっていきたいと思っております。以上でございます。¶014

Ⅲ 今回の民事訴訟法改正に至る経緯

笠井ここからは本題に入りますが、最初に、今回の民事訴訟法改正に至る経緯について取り上げます。まず、私から、今回の改正の対象となった現行法の規定や今回の改正に至る経緯について説明します。¶015

現行法では、当事者や訴訟代理人が裁判所に出頭せずに争点証拠整理手続等に関与する仕組みとして、弁論準備手続期日、書面による準備手続、進行協議期日において音声の送受信、すなわち電話会議システムの利用ができるものとされています。書面による準備手続では双方とも不出頭での電話会議システムによる協議が可能ですが、弁論準備手続期日と進行協議期日では当事者の一方の出頭が必要とされています。また、証人尋問や当事者本人尋問は映像と音声の送受信による方法、いわゆるテレビ会議システムの利用によることが可能であるとされています。¶016

そして、電子情報処理組織による申立て等については2004年の民事訴訟法改正(平成16年法律第152号)によって132条の10等の条文が加えられています。ただ、督促手続についてはオンライン化が実現しましたが、民事訴訟の本体であるいわゆる判決手続についてはオンラインによる訴えの提起や準備書面等の提出が実現しないままでした。¶017

そのような中で、2017年以降、政府全体として、民事裁判のIT化に向けた動きが本格化することになります。まず、政府の「未来投資戦略2017―Society5.0の実現に向けた改革―」(2017年6月9日閣議決定)で、「迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため、諸外国の状況も踏まえ、裁判における手続保障や情報セキュリティ面を含む総合的な観点から、関係機関等の協力を得て利用者目線で裁判に係る手続等のIT化を推進する方策について速やかに検討し、本年度中に結論を得る」(112頁)とされました。その背景には、世界銀行が発表する“Doing Business”2017年版で、日本の裁判手続に関し、特に「事件管理」と「裁判の自動化」の項目が低い評価であったということがあると言われています。¶018

そこで、政府では、内閣官房が2017年10月から「裁判手続等のIT化検討会」を開催し、2018年3月30日に「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-『3つのe』の実現に向けて-」という報告書(以下、「検討会取りまとめ」という)がまとめられました。そこでは、e提出、e法廷、e事件管理をフェーズ1から3までの各段階に分けて実現していくことが提言されています。フェーズ1では、現行法の下で、争点整理手続でウェブ会議等のITツールを積極的に利用するなどし、その拡大・定着を図っていくこと(e法廷の先行実現)が想定されています。フェーズ2とフェーズ3では実現に関連法令の改正を要するものについて法整備と実施を期待するとされています。フェーズ2で、双方当事者が裁判所に出頭せずにウェブ会議等を活用して口頭弁論期日等の手続を実施できるようにするということで、これはe法廷の拡充ということになります。そして、フェーズ3では、システムやITサポート等の環境整備を実施した上でオンライン申立てへの移行、事件記録の電子化等を図ることとされており、すなわち、e提出とe事件管理の実現です。検討会取りまとめは、これらにより、当事者は裁判所外からオンラインにより訴え提起を始めとする申立てや事件記録の閲覧ができるようになるとともに、各種の期日にいずれの当事者も裁判所に出頭する必要がなくなるなど、利便性が高まることが期待されるとしています。¶019

この検討会取りまとめについては、検討会取りまとめと同日に、日本弁護士連合会から「内閣官房裁判手続等のIT化検討会『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ』に関する会長談話」(2018年3月30日)が発表されています。¶020

政府では、「未来投資戦略2018―『Society 5.0』『データ駆動型社会』への変革―」(2018年6月15日閣議決定)のうち「裁判手続等の IT 化の推進」という部分で(55頁~56頁)「司法府による自律的判断を尊重しつつ、民事訴訟に関する裁判手続等の全面IT化の実現を目指すこととし、以下の取組を段階的に行う」と述べて、検討会取りまとめの方向を承認しています。¶021

続いて、2018年7月から、公益社団法人商事法務研究会において「民事裁判手続等IT化研究会」が開催され、法的な課題の整理や規律の仕方等について検討がされました。この研究会は、2019年12月に「民事裁判手続等IT化研究会報告書―民事裁判手続のIT化の実現に向けて―」という報告書(以下「IT化研究会報告書」という)を公表しています。¶022

そして、IT化の実現などのために必要な民事訴訟法等の改正について、2020年2月に法務大臣から法制審議会へ諮問がされ、これに基づき、法制審部会が同年6月から2022年1月まで審議をし、同年2月に法制審議会がその審議結果を採択して「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」(2022年2月14日) (以下「改正要綱」という)を法務大臣に答申しました。¶023

そして、令和4年(2022年)通常国会で、内閣から改正要綱を踏まえた民事訴訟法等の一部を改正する法律案が提出され、審議の結果、同法律が2022年5月18日に成立し、同月25日に公布されたということになります。¶024

ということで、以上のような経緯があったわけでございましたけれども、以上の経緯での法務省の対応、特に法制審議会や法制審部会の審議の全般的な状況、それから国会審議の状況等について、まず脇村さんからご説明をお願いできればと思います。¶025

脇村まず、私ども法務省民事局の関わり方についてお話しさせていただきたいと思います。先ほど笠井さんからお話がありましたとおり、この民事裁判のIT化を推進していくことは、政府の方針でありましたが、法務省民事局がなすべき作業としては、法律の改正、民事訴訟法の改正の作業が主なものでありました。¶026

改正作業の経緯ですが、政府方針についての閣議決定を受けまして、先ほどからご紹介がありましたとおり、公益社団法人商事法務研究会が開催しておりました民事裁判手続等IT化研究会における議論に参加するなどして、その検討を進めてまいりました。この研究会は2018年7月から2019年12月までの間、合計15回にわたり山本和彦一橋大学大学院法学研究科教授を座長として、研究者の皆さんのほか、弁護士、司法書士、あるいは、裁判所、法務省の関係者をメンバーとして開催され、同研究会は、2019年12月に、報告書を取りまとめました。¶027

また、後でお話をする法制審議会の諮問後でありますが、今回の法改正において実現しました民事訴訟における被害者の氏名等を相手方に秘匿する制度について検討するため、公益社団法人商事法務研究会が開催しておりました証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会に参加しておりました。この研究会は、畑瑞穂東京大学大学院法学政治学研究科教授を座長とするものですが、2021年6月に、この制度に関する報告書を取りまとめております。¶028

そして、法制審議会の関係ですが、法務大臣から法制審議会に対しまして、2020年2月21日、民事裁判手続のIT化に関する諮問第111号が諮問され、これを受けまして、法制審議会に民事訴訟法(IT化関係)部会が設置され、調査審議が開始されたところでございます。¶029

この部会は、山本和彦教授を部会長とし、合計23回の会議が開催されました。この間、2021年2月19日に「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」が、同年7月30日に民事訴訟において被害者の氏名等を相手方に秘匿する制度についての「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する追加試案」が、それぞれ取りまとめられまして、それぞれについてパブリックコメントの手続が実施されたところでございます。その後、この部会では、パブリックコメントの結果を踏まえて調査審議が重ねられ、2022年1月28日に、部会の最終案として、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案」が取りまとめられ、同年2月14日、法制審議会総会において、この要綱案どおりの内容で改正要綱が決定され、法務大臣に答申されました。¶030

その後、法務省民事局を中心に、この答申を踏まえ立案作業が進められまして、2022年3月8日、「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」が第208回通常国会に提出されました。この法律案につきましては、2022年3月22日に衆議院法務委員会に付託され、その審査が開始し、同年4月20日には衆議院法務委員会において、同月21日には衆議院本会議においてそれぞれ可決され、参議院に送付されました。その後、同月25日に参議院法務委員会に付託され、その審査が開始し、同年5月17日には、参議院法務委員会において、同月18日には参議院本会議においてそれぞれ可決されて法律が成立し、2022年5月25日に公布されたところでございます。法務省の民事局が中心に関わってきたところは以上でございます。¶031

笠井どうもありがとうございます。それでは橋爪さんから、以上の経緯での裁判所の対応や取組、それから、法制審部会での審議全般を含めた対応姿勢等についてお伺いできればと思います。¶032

橋爪ありがとうございます。それではまず、いわゆるフェーズ1の取組から説明を始めたいと思います。先ほど笠井さんにご紹介いただきました「未来投資戦略2018」において、司法府には現行法の下でのウェブ会議等の積極的な活用を期待するなどとされたことなども踏まえまして、裁判所では2020年2月から、現行法の下でも実施可能な運用として、ウェブ会議、すなわち一般のインターネット回線を介したビデオ通話機能、アプリケーションとしてはMicrosoft社のTeamsになりますが、これを活用した争点整理手続を行っています。¶033

この運用は、知財高裁と一部の地裁本庁から実施し、2020年12月には全ての地裁本庁に運用を拡大しました。2022年2月からは地裁支部への運用を順次拡大し、7月からは全国の全ての地裁支部でウェブ会議を用いた争点整理手続の運用が実施されています。直近の数字ですと、2022年6月の1カ月の利用件数は、全国で2万2000件以上ということで、相当多くの事件で利用がされていますが、さらに2022年の11月には、高等裁判所での運用も開始する予定です。¶034

手続の種別としましては、当事者の一方が裁判所に出頭するときは弁論準備手続、双方ともがウェブ会議の方法で参加するときは書面による準備手続における協議といった形で利用されていますが、割合的には双方ともウェブ会議の方法で参加する後者の形が圧倒的に多くなっています。現行法では「当事者が遠隔の地に居住しているとき」(民訴175条)とのいわゆる遠隔地要件が定められていますが、実際の運用では必ずしも遠隔地とは言えない場合においても、当事者双方が同意して、事案の内容や訴訟代理人の対応などに照らして可能であると判断されるときには、「その他相当と認めるとき」に当たるとして、ウェブ会議を行う例が多いと承知しており、この点は遠隔地要件を削除した改正法の先取り的な運用がされているということもできるかと思います。¶035

次に現行法下における電子提出の運用として、132条の10などに基づく民事裁判書類電子提出システム、通称「mints」の運用についてご説明します。最高裁で新たに開発したこのシステムを用いて、民事訴訟における準備書面等の電子提出を実現するため、最高裁規則(mints規則)、正式名称は「民事訴訟法第百三十二条の十第一項に規定する電子情報処理組織を用いて取り扱う民事訴訟手続における申立てその他の申述等に関する規則」(令和4年最高裁判所規則第1号)となりますが、これを制定し、2022年4月1日から施行されています。¶036

このシステムで提出可能な書面は、法132条の10第1項の「申立て等」のうち、民事訴訟規則3条1項によりファクシミリで提出可能とされている書面となっていますが、これに加えて「申立て等」には含まれない書証の写しも電子提出の対象に含めています。これは近年の情報通信技術の発展により、一般に書証の内容を正確に電子化することにも困難が伴うとは言えなくなったと考えられたためです。また、mints規則の1条では、当事者が「mints」を用いた電子申立て等をすることができる場合を、基本的に「当事者双方に委任を受けた訴訟代理人……があり、かつ、当事者双方において電子情報処理組織を用いて申立て等をすることを希望する事件」に限っています。これは、このシステムがインターネットを通じて利用されるものであり、情報セキュリティを維持し、十分な通信帯域を確保するなどして、安定的に稼働させる必要があることなどから、まずは確実に運用可能な範囲から運用を開始していこうという考えによるものです。双方当事者が「mints」を利用することとなる結果、裁判所への提出のみならず、相手方当事者への直送も、このシステムを用いて行うことが可能となっています。現時点では「mints」を用いた電子申立て等が可能な裁判所は、甲府地裁、大津地裁、知財高裁のほかは、東京地裁及び大阪地裁の一部の部に限られていますが、今後、これらの庁の運用状況を踏まえながら、導入庁の拡大を順次図っていきたいと考えており、現時点では2023年1月に高裁が所在する8地裁への運用拡大を予定しているところです。¶037

今回の改正法では、委任を受けた訴訟代理人は、電子申立てをしなければならない旨の規律が採用されたところでもありますので、導入庁が拡大した暁には、弁護士の方々には積極的に「mints」を利用して、電子提出の方法に習熟していただければと考えております。¶038

これまで申し上げたフェーズ1の運用と「mints」の運用につきましては、いずれも現行法の下での取組になりますが、ウェブ会議を用いた争点整理手続の運用は、フェーズ2の運用を検討する上で大いに参考となるものですし、「mints」の運用もフェーズ3の完全な電子化に向けた先行実施としての意味合いをも有すると考えています。裁判所としては現行法の下でも可能なこういった取組を着実に進めつつ、法制審部会等の場でも裁判手続のIT化に対して前向きな姿勢で臨んできたところです。私のほうからの説明は以上になります。¶039

笠井どうもありがとうございました。それでは、日下部さんから以上の経緯での弁護士会や弁護士の受け止め、対応、取組等ですね。それから、法制審部会での審議全般への対応姿勢。先ほどもお話がありましたが、バックアップ体制も含んでご発言いただければと思います。よろしくお願いいたします。¶040

日下部ありがとうございます。日弁連の立場といたしましては、かなり古い時点から裁判手続のIT化の必要性を訴えてきたという経緯があります。具体的に申し上げますと、2011年5月に韓国でIT化された訴訟手続の民事事件での利用が開始されたものと承知しておりますが、同月27日に、日弁連は、「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」を採択し、その中で裁判手続におけるITの活用を含む改善・改革を訴えました。また、その後もいくつかの決議などで、同様に、裁判手続におけるIT化を訴えてきたという経緯がございます。そのような経緯があるものですから、日弁連は、政府が「未来投資戦略2017」において裁判手続のIT化の基本的な方向性を検討するという方針を示したことについては歓迎し、内閣官房に設置された裁判手続等のIT化検討会での検討に際しても、私を含む弁護士の委員をバックアップしてきたという次第です。¶041